フジトモ島の冒険Adventures on Fujitomo Island

第56話「玄関の小さな段差が運命を変える日」

登場メンバー

  • カトー:フジトモ号の船長。みんなを導くリーダー。
  • ともりゅう:知恵の龍。静かに真実を語る。
  • ともねこ:癒しの猫。あたたかな言葉で寄り添う。
  • ともいぬ:元気な犬。場を明るくするムードメーカー。
  • 守龍:工務の守り神。現場判断に強い職人タイプ。
  • 創龍:見習いスタッフ。ケアマネ資格持ちで吸収力抜群。

 

朝の光がまぶしく差し込む、ある一軒の家。

その玄関の前で、カトーは小さく眉を寄せた。

「……この段差、3センチか。」

ほんの少し。

けれど、暮らしの安全を左右する“境界線”でもあった。

ともいぬが覗き込む。

「え?こんなちょっとで危ないのワン?」

ともりゅうが静かに言う。

「ちっぽけに見えるが、油断が事故を呼ぶ。

大人にとっての3センチは、年配の方には“壁”になるのじゃ。」

玄関の扉が開き、お父さんが笑顔で出迎えてくれた。

「母が最近、外に出るのを怖がるようになってね。

転んだら…と思うと、僕らも心配で。」

創龍は優しくうなずいた。

「心配しながら見送る玄関って、家族みんなに重さが出ますよね。」

◆ 小さな段差の裏に隠れた“大きな不安”

お母さんが玄関に椅子を置き、ゆっくり腰掛けた。

「外は好きなのよ。庭の花も見たいし。

でも、転ぶって思ったら……足がすくんじゃってね。」

その言葉に、ともねこがそっと寄り添う。

「“怖い”って気持ち、誰にでもあるニャ。ひとりで抱えなくていいニャ。」

守龍は段差の高さ、地面の傾斜、滑り具合を丁寧に確認した。

「ふむ……これは、段差解消スロープ+手すり、両方だな。」

創龍が図面を開きながら言う。

「手すりを斜めにつければ、外の地面との“つながり”が生まれるはずです。」

カトーは家族に向き直った。

「外へ出たい気持ち――その背中を押せる玄関を作りましょう。」

◆ 工事スタート。“安心への道”が形になる

コンクリートの削り音が響き、

守龍の職人の手が、玄関の段差を少しずつ整えていく。

創龍は測りを持ち、真剣な表情で角度をチェックする。

「もう少し緩やかに……これくらいかな。」

ともいぬが感心したように言う。

「創龍、めちゃくちゃ成長してるワン!」

創龍は照れながら笑う。

「だって、人の“安心”って形に残るんだって……最近よく分かってきたんです。」

ともりゅうは嬉しそうに目を細めた。

「心を込めた仕事は、必ず暮らしに光を灯すものじゃ。」

◆ 完成した玄関。そして──

工事が終わり、新しい玄関が姿を見せた。

明るい色のスロープ。

手に馴染む木の手すり。

段差は、ほとんど気にならない高さになった。

お母さんがゆっくりと足を出す。

一歩。

もう一歩。

外の風が、ふわりと頬を撫でた。

「……あぁ、外の空気って、こんなに気持ちよかったんだねぇ。」

その声に、お父さんも肩の力が抜けていく。

「ありがとう。本当にありがとう。」

カトーは穏やかな声で言った。

「たった数センチでも、人生が変わることがあります。

今日のお母さんの“一歩”は、新しい未来への一歩でもあります。」

ともねこ:「外の風って、心のドアも開けてくれるニャ。」

ともいぬ:「オレも散歩いきたくなったワン!」

創龍:「これからも、“歩きたい気持ち”を守れる仕事がしたいです。」

ともりゅう:「今日もひとつ、家族の安心が生まれたのう。」

春の風が、玄関を越えて家の中へ流れ込む。

それはまるで――未来の光を運ぶ風だった。

──つづく。

【次回予告】

第57話「お風呂の寒さはもう終わり!〜断熱パネルとやさしい湯気〜」

冬のお風呂の“ヒヤッ”は、もういらない。

フジトモ号が挑む、あたたかな浴室づくりの物語。

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