フジトモ島の冒険Adventures on Fujitomo Island

第69話【2026.3-1】

【2026年3月テーマ】

気づかない不便に気づく

私たちは、

困っている人を探すのではなく、

まだ言葉になっていない“少しの不便”に

そっと目を向けます。


【今週のお話】

ジャズが流れる小さな喫茶店で、

「まだ大丈夫」と笑う常連さんの、

ほんの一瞬の動きに目を向けた日のお話です。


午後三時。

店の奥で、レコードの針がゆっくり落ちる。

サックスの音が、少しかすれながら店内に広がった。

木の床は長い年月で飴色に変わり、

窓からの光が丸テーブルをやわらかく照らしている。

いつもの席に、いつもの人が座る。

コーヒーが置かれる。

白いカップの取っ手に、指をかける。

少しだけ、ぎゅっと力が入る。

砂糖の細い袋をつまむ。

指先で切ろうとして、うまくいかない。

一度テーブルに置いて、もう一度つまむ。

「最近のは、固いな」

笑いながら、そう言う。

飲み終えて立ち上がるとき、

両手が自然とテーブルのふちを探す。

体を持ち上げるまで、ほんの一拍。

誰も何も言わない。

本人も、困っているとは言わない。

数日後。

その席の椅子に、薄いクッションが一枚足された。

色も形も、前とほとんど変わらない。

いつものように座る。

いつものようにコーヒーを飲む。

そして立ち上がる。

今日は、テーブルに手をつかなかった。

「あれ?」

自分で少し驚いた顔をする。

「なんか、楽だな」

それだけだった。

サックスは変わらず流れている。

窓からの光も同じ角度で差している。

変わったのは、

ほんの数センチの高さだけ。

ちょっと整うだけで、

毎日は軽くなる。

ジャズ喫茶の午後は、今日も静かに続いていく。


フジトモ島について

この物語はフィクションです。

けれど私たちは、現実の暮らしの中で

「ちょっと整える」仕事をしています。

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