フジトモ島の冒険Adventures on Fujitomo Island

第70話【2026.3-2】

【2026年3月テーマ】

気づかない不便に気づく

私たちは、

困っている人を探すのではなく、

まだ言葉になっていない“少しの不便”に

そっと目を向けます。


【今週のお話】

ジャズ喫茶の入口で、

ドアを押すほんの一瞬の動きに、

小さな変化があった日の話です。


雨あがりの午後。

店の前の石畳は、まだ少し濡れている。

レコードから流れるピアノの音が、

ガラス越しにやわらかくにじんでいた。

カラン、とベルが鳴る。

入口の木のドアは、少し重い。

昔からそうだ。

常連の女性が、いつものようにやってくる。

右手に傘。左手でドアを押す。

一度では開かない。

体重を少し乗せて、もう一度。

ふっと息を吐いてから、中へ入る。

「このドア、いい音するのよね」

そう言って笑う。

その日の夕方、

ドアの内側に、細い真鍮の取っ手がついた。

目立たない、控えめなもの。

翌週。

また雨。

同じ傘。

同じ足取り。

今度は、傘をたたみながら、

指先でその取っ手を引く。

するり、と開く。

一瞬、動きが止まる。

「あら」

小さな声。

「なんか、軽いわね」

ベルの音は変わらない。

ジャズも変わらない。

変わったのは、

手の動きだけ。

ほんの少しの工夫で、

肩の力が抜ける。

押さなくていい、というだけで、

雨の日の気持ちは少しやわらぐ。

気づかない不便は、

だれも文句を言わない。

だからこそ、

そっと整える。

ドアの向こうで、

今日も静かな音楽が流れている。

ちょっと整うだけで、毎日は軽くなる。


フジトモ島について

この物語はフィクションです。

けれど私たちは、現実の暮らしの中で

「ちょっと整える」仕事をしています。

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