- カトー:フジトモ号の船長。みんなを導くリーダー。
- ともりゅう:知恵の龍。静かに本質を語る。
- ともねこ:癒しの猫。気持ちに寄り添う名サポーター。
- 剛龍:福祉用具・住宅改修担当。現場と暮らしをつなぐ実務派。
- 舞龍:明るく前向きなプランナー。家族の声を引き出す。
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「……寒っ」
脱衣所で思わずこぼれた、その一言。
冬の夜、お風呂に入る前の“あの瞬間”だった。
舞龍がそっとうなずく。
「この一歩が、いちばんつらいんですよね。」
洗面所から浴室へ。
ドアを開けた瞬間、
ひやっとした空気が足元を包み込む。
ともねこが小さく身をすくめた。
「これは……心まで縮こまる寒さニャ。」
◆ 冬のお風呂が怖くなる理由
今回の依頼は、60代のご夫婦。
奥さんが少し申し訳なさそうに話してくれた。
「主人ね、最近お風呂に入るのを嫌がるの。
寒いからって。
でも、清潔も大事だし……正直、心配で。」
剛龍が浴室を一通り見て言った。
「タイルが冷たい。壁も薄い。
これは“寒さ”じゃなくて、“危険”ですね。」
カトーが続ける。
「ヒートショックの入口は、
“寒いから入りたくない”という気持ちから始まります。」
ともりゅうが静かに語った。
「人は怖さを感じると、行動を止める。
だが、止めた先にこそ危険が潜んでおる。」
◆ 解決策は「全部変えない」こと
舞龍が、やさしい口調で提案した。
「お風呂を丸ごと変えなくてもいいんです。
今の浴室を活かして、“寒くないお風呂”にしましょう。」
剛龍がうなずく。
「断熱パネルを壁に施工。
床には冷えにくい素材を重ねます。」
さらに――
・浴室暖房
・入口の段差をなくす
・手すりの位置を“湯船から立つ動線”に合わせる
「安心は、足し算でつくるんです。」
ともねこ:「やさしいお風呂は、心も洗ってくれるニャ。」
◆ 工事中に変わっていく“空気”
断熱パネルが一枚、また一枚。
壁が変わるたび、
浴室の“音”が変わっていった。
「……静かになってきましたね。」
舞龍の言葉に、剛龍が笑う。
「熱も音も、逃げなくなってきた証拠です。」
カトーは湯気の立ち方を見て言った。
「この空気なら、深呼吸できる。」
ともりゅう:「よい風呂とは、
身体だけでなく、心もほどく場所じゃ。」
◆ 完成。そして、最初の一歩
夜。
完成したお風呂に、奥さんがそっと電気をつける。
やわらかな光。
床は冷たくない。
壁に手を当てても、ひやっとしない。
「……あら。」
奥さんの声が、少し明るくなる。
ご主人が恐る恐る浴室に入った。
そして――小さく息を吐く。
「寒くないな。」
その一言に、奥さんの目が潤んだ。
「よかった……ほんとによかった。」
カトーは静かに言った。
「お風呂は、“一日を終える場所”。
ここがつらいと、毎日がつらくなる。」
ともねこ:「今日のお風呂は、やさしい色だニャ。」
剛龍:「これなら、毎日入れますね。」
舞龍:「安心って、こんなふうに広がるんですね。」
ともりゅう:「湯気とともに、恐れも消えたのう。」
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湯気が、天井へゆっくりのぼっていく。
それはまるで――
不安がほどけていく様子のようだった。
──つづく。
【次回予告】
第58話
「トイレが遠い夜に〜動線と安心の設計図〜」
夜中の“あと一歩”が怖くなる。
そんな声に、フジトモ号が応える。



