「“まだ使える”と“今ちょうどいい”の違い〜台所が教えてくれたこと〜」
- カトー:フジトモ号の船長。暮らしの変化を言葉にする導き手。
- ともりゅう:知恵の龍。時間と人の関係を静かに語る。
- ともねこ:癒しの猫。台所の空気にいち早く気づく。
- 舞龍:プランナー。生活者の目線で違和感を拾う。
- 剛龍:住宅改修担当。現場で現実解を組み立てる。
朝の台所には、
独特の音がある。
換気扇の低い唸り。
フライパンがコンロに触れる乾いた音。
包丁がまな板を打つ、一定のリズム。
その家の台所も、
毎朝ちゃんと“動いて”いた。
でも――
どこか、ぎこちない。
ともねこが足元を見て、首をかしげた。
「歩くたびに、ちょっと詰まる感じがするニャ。」
◆ 相談は、こんな一言だった
「壊れてはいないんです。」
そう前置きして、
奥さんは少しだけ困ったように笑った。
「ただ……
朝ごはんを作るのに、前より時間がかかるんです。」
舞龍が台所に立ち、
ゆっくり一周する。
シンクから冷蔵庫。
冷蔵庫から作業台。
作業台からコンロ。
「……動線が、半歩ずつ遠いですね。」
剛龍が補足する。
「高さも、少し合ってない。」
ともりゅうが静かに言う。
「“まだ使える”は、
“今に合っている”とは限らぬ。」
◆ 台所は、毎日の“積み重ね”
奥さんは、
コンロの前で少し背中を丸めた。
「昔は、平気だったんです。
でも最近、夕方になると腰が重くて。」
フライパンを持ち上げる手に、
ほんの一瞬の迷いがある。
ともねこがそっと言う。
「その“一瞬”が、積もるニャ。」
カトーは、
朝の光が差し込む窓を見ながら話した。
「台所は、
一日で一番“繰り返す場所”です。」
「だから、
合わなくなると、
毎日が少しずつ削られていく。」
◆ フジトモの提案は、大きく変えない
舞龍が図面を広げる。
・作業台の高さを、数センチ下げる
・よく使う収納を、腰の位置へ
・冷蔵庫の向きを少し変える
・足元に、やわらかい感触の床材
剛龍がうなずく。
「全部そのままでも、
“並び”を変えるだけで楽になります。」
ともねこ:「ちょっとの違いが、毎日を変えるニャ。」
ともりゅう:「暮らしとは、
小さな最適化の積み重ねじゃ。」
◆ 変わった朝
数日後。
同じ時間。
同じ台所。
でも――音が違う。
包丁のリズムが軽い。
足の動きに、迷いがない。
奥さんが、
ふっと息を吐いた。
「……あれ?」
「前より、
自然に動けてる。」
舞龍が微笑む。
「“考えなくていい”って、楽ですよね。」
剛龍が言う。
「体に合ってる証拠です。」
ともねこは、
日だまりで丸くなりながら言った。
「今日は、台所がやさしいニャ。」
◆ “まだ使える”を手放す勇気
奥さんは、
古い収納を撫でながら言った。
「捨てるの、少し迷いました。」
「でも……
今の私には、
今の台所がいいですね。」
ともりゅうが静かに答える。
「選び直すことは、
否定ではない。」
「今を大切にする、
立派な決断じゃ。」
カトーはまとめた。
「2026年は、
“我慢を続ける年”じゃない。」
「今の自分に合う暮らしを、
素直に選び直す年です。」
◆ 余韻
朝の光が、
台所の床に伸びる。
そこに、
無理はない。
ただ、
自然な動きがあるだけ。
ともねこが小さく言った。
「今日も、いい一日が始まるニャ。」
──つづく。
🔜 次回予告
第65話
「立ったまま、長くいられなくなったら〜キッチンと体の関係〜」
体が変わると、
家の“正解”も変わる。
