「立ったまま、長くいられなくなったら〜キッチンと体の関係〜」
- カトー:フジトモ号の船長。暮らしと体の変化をつなぐ導き手。
- ともりゅう:知恵の龍。変化を受け入れる意味を語る。
- ともねこ:癒しの猫。人の小さな無理に気づく存在。
- 剛龍:住宅改修担当。体に合う現実的な解を組み立てる。
夕方のキッチンは、
朝とは少し空気が違う。
窓の外が暗くなり、
コンロの火だけが明るい。
その家の奥さんは、
フライパンを置いたまま、
一度、深く息を吐いた。
「……ちょっと、休もう。」
ともねこが足元を見上げる。
「さっきから、動きが止まるニャ。」
◆ 相談は「疲れやすくなった」
「前は、
立ちっぱなしでも平気だったんです。」
そう言いながら、
奥さんはイスに腰を下ろした。
「でも最近、
夕方になると、足が重くて。」
剛龍が静かに聞く。
「どこか痛みはありますか?」
「痛いほどじゃないんです。
ただ……長く続かない。」
ともりゅうが言った。
「それは、衰えではない。」
「体が、
“やり方を変えよう”と
知らせておるのじゃ。」
◆ キッチンは、立つ場所だった
カトーは、
キッチン全体をゆっくり見渡した。
作業台。
コンロ。
シンク。
どれも、
「立って使う」前提で作られている。
「キッチンって、
実は一番“体力を使う場所”なんです。」
剛龍が続ける。
「立つ。歩く。持つ。ひねる。」
「これを、
一日何十回も繰り返す。」
ともねこ:「毎日だと、効いてくるニャ。」
◆ フジトモの提案は「休めるキッチン」
大きな工事はしない。
・キッチンに合う高さのイス
・座って使える作業スペース
・よく使う道具を、手前に集約
・床の硬さをやわらかくする
剛龍が説明する。
「“全部立つ”をやめるだけで、
かなり楽になります。」
ともりゅうがうなずく。
「体に合わせて、
場を変える。」
「それは、
とても自然な選択じゃ。」
◆ 変わった夕方
数日後。
同じ時間。
同じ夕方。
でも、
奥さんは途中で座っていた。
イスに腰をかけ、
ゆっくり包丁を動かす。
「……不思議。」
「疲れ切る前に、
夕飯ができる。」
ともねこがそばで丸くなる。
「今日は、顔がやわらかいニャ。」
剛龍が言う。
「体が、ちゃんと保ってますね。」
◆ 無理をしないという選択
奥さんは、
湯気の立つ鍋を見ながら言った。
「昔みたいに動けなくなった、
って思ってたんです。」
「でも……
やり方を変えれば、
まだちゃんとできるんですね。」
ともりゅうが静かに答える。
「変わることは、
終わりではない。」
「続けるための、
知恵じゃ。」
カトーはまとめた。
「暮らしは、
頑張り続けるものじゃない。」
「体に合わせて、
形を変えながら続けるものです。」
◆ 余韻
キッチンの灯りが、
床に落ちる。
そこには、
急ぎも、無理もない。
ただ、
落ち着いた時間がある。
ともねこが小さく言った。
「今日も、ちゃんとできたニャ。」
──つづく。
🔜 次回予告
第66話
「座れる場所が増えると、会話が増える〜ダイニングの変化〜」
姿勢が変わると、
家族の距離も変わる。
